可愛いだけではダメ!?食器の輸入は難しい。

ベトナム食器でお土産としても人気の高いバッチャン焼き

こんにちは、アジアン食器専門店サラヤシキの藤井です!
輸入はロマンです。これまで日本になかったものを自ら日本の市場に流通させるのですから、これはもうロマンでしかありません。海外で見つけた可愛い雑貨やお洒落な服。そんな自分の好きな商品だけを好きなだけ仕入れてみたい!海外旅行好きな方の中には、そんな憧れを持つ人も多いのではないでしょうか。海外にはその国特有のデザインや色使いがあり、日本では絶対に手に入らないようなものがゴロゴロあります。
最初は友達へのお土産として買ったものでも、すごく喜んでくれたり珍しがってくれたりすると、もっと沢山仕入れて販売してみたいという気持ちがが生まれるのも自然な流れではないでしょうか。輸入業の根底にあるものは「この商品を日本でも販売したい!」「この商品の良さを日本で広めたい!」というシンプルな衝動であるべきだと私は思います。友達のリアクションがきっかけでも、それも立派な動機です

と、偉そうに輸入の神髄を書き連ねてしまいましたが、私もまだまだ初心者の身。輸入の「ゆ」の字も知らないところからはじめて、最近ようやく少しずつ形になってきたところです。ひと通りやってみて特に難しかったのが、何といっても食品衛生法の問題です。輸入手続きの煩雑さはすべての商品に共通して言えることですが、あろうことか私が手を出したのはお皿や小鉢、カップなど食器の輸入。タイやベトナムをはじめ大好きな東南アジアへ行くたびずっと気になっていた個性的な食器やキッチン用品の数々。ベトナムの食器で有名なバッチャン焼きや、タイのセラドン焼きベンジャロン焼きブルー&ホワイトなど、南国特有の色鮮やかなものから高級感のあるゴージャスなものまで、そこには日本では出会うことの出来ない自由奔放でダイナミックなアジアの息遣いがありました。そんな多種多様な食器の沼にどっぷりと嵌ってしまい、どうしても専門店を立ち上げたいという衝動を抗うことができませんでした。そこでまず食器の輸入方法について調べ始めたところ、すぐに「食品衛生法」というワードに辿り着いたのです。→厚生労働省『食品衛生法に基づく輸入手続』

まずは食品衛生法を理解しよう。

「食べ物や飲み物が直接触れる食器は、安全性が確認できたものじゃないと輸入を許可しませんよ」
「でも検査は自分で検査機関を探してね。もちろん検査費用も自腹だよ」

「検査は1アイテムごとに必要だよ。色違いのお皿は、その色の数だけ別々に検査証をゲットしてね」

簡単に言うとこういうことです。ハードル高すぎぃぃぃいい!!
その瞬間私は一旦くじけました。これはさすがに無理だろうと思い、ふて寝しました。でも少し経って起き上がり、もう少しだけ調べてみることにしました。検査機関ってどんなところ?どんな検査が必要なの?どうやって申請するの?検査しないとどうなるの?今家にあるお土産の食器は販売していいの?いつか露店で見かけたあの食器も輸入できるの?…など、沢山の疑問が脳裏を駆け巡ったからです。
そこで行き着いたのが、一般財団法人対日貿易投資交流促進協会(通称:miproミプロ)さんが発行している「食品用器具輸入の手引き(PDF)」という資料です。タイトルからして、まさに渡りに船!初心者にもわかりやすく解説してあり、これだけで食器の輸入手続きがかなり理解出来ました。しかも電話相談まで受け付けてくれるので、初心者の私には大変ありがたく何度もお世話になりました。
最初は正直、食器の検査なんて本当に必要なの?別にそこまでしなくても…という気持ちもありましたが、何のために検査が必要なのかをきちんと理解することで、その重要性に気が付くことができました。食品衛生法と聞くと、食品そのものの品質や調理環境への配慮を規定する法律だと思いがちですが、それだけではありません。食器は材質ごとに細かく安全基準が設けられていて、赤ちゃんのおもちゃまで厳格に規定されています。赤ちゃんはおもちゃを口に入れるので、害のある物質が使用されていないか検査が必要なのだそう。私が主に取り扱う陶器製品は、使用中に鉛やカドミウムなど人体に悪影響を及ぼす可能性のある物質が溶け出さないかを様々な試験項目で調べ、基準値を満たしていることが証明出来てはじめて検査証明書が発行され、輸入が許可されます。
<参考>器具及び容器包装のカドミウム及び鉛に係る規格の改正 に関するQ&Aについて(PDF)

絶対に仕入れたい!という強い想いを武器に。

タイの三大陶器のひとつ『セラドン焼き』のお皿

また食品衛生法の検査は、厚生労働省の認可を受けた専門機関である必要があります。
こちらのページ:食品衛生法上の登録検査機関について(厚生労働省)の中断にある検査機関のリストから選べます。検査依頼は電話やメールでもやりとりできますが、私の経験上、何かあったときに直接行って話せる距離にある検査機関が良いと思います。特に先行サンプル検査(輸入前に検査を済ませ、先に検査証を発行する方法)では、海外の製造元から検査機関へ正しく直送されたものしか認められません。途中で開封されたり、別の場所を経由したり、配送伝票にスペルミスがあるだけでもアウトです。なので、現地からサンプルを発送してもらうだけで何重にもチェックが必要になり、予想外のトラブルは付きもの。だからこそ、いつでもすぐに対応できるようなるべく近い場所にある検査機関の中から自分に合ったところを探すのがベストです。
ちなみにもうひとつの検査方法としては、イキナリ貨物を日本まで輸送してしまって、港の保税地域で保管されているうちに検査官の人に来てもらい、貨物からサンプルを抜き取って検査をする方法もあります。この方法の方が手間は少なくなりますが、万が一検査に合格しなかった場合は貨物を引き取ることが認められず廃棄になるか、または発送元に返送することになるという重大なリスクもあります。もちろんその場合は廃棄も返送も費用は輸入者自身が負担しなければならず、せっかく仕入れた商品もすべて無駄になってしまいます。どちらの方法にもメリット・デメリットがありますが、商品内容や予算に応じて決めるのが良いと思います。

食器の検査方法は大体ご紹介してきた通りですが、ではどんな食器でも検査さえすれば輸入できるのかというと、答えはNoです。食器を輸入する際には、管轄している検疫所に輸入する食器の内容を届け出なければなりません。(届け出先→ 食品等輸入届出受付窓口一覧)その際、どこで製造されたどんな食器がどれだけ入ってくるか、検査はどうするのかなど、詳細に報告する必要があるのですが、この「どこで製造されたものか」というのがポイントです。これはつまり、どこの誰が作ったのかわからないものは、そもそも輸入できないということを意味しています。また検査機関に検査を依頼する際にも、製造元から直送されたものしか検査をしてくれません。
以上を踏まえると、例えば露店で見つけた可愛いお皿や、観光客向けのお土産屋さんで買ったマグカップなんかは、そもそも輸入自体が不可能という結論に至ります。どうしても輸入したいものは、その製造元を特定し、製造元に様々な手続き協力を依頼しなければ輸入は成立しません。現地の商社や輸出代行会社を通して購入することも可能ですが、ただでさえ言葉の壁がある海外で協力会社を見つけることは容易ではありません。市場で気に入ったものを片っ端から買い付けようと思っていた私にとって、これはなかなかの衝撃でした。

難しいからこそ、小皿1枚まで徹底的に愛せる。

ベトナムのバッチャン村で製造されるバッチャン焼きの小皿

これまで食器の輸入方法について話を進めてきましたが、食に携わる製品ならではの難しさは十分お分かり頂けたかと思います。ところが残念なことに、中には輸入というかたちをとらず、手荷物としてスーツケースに詰めて持ち帰ったものをそのまま販売している違法業者も少なくありません。食品衛生法の検査義務を知っていながら、「※この商品は雑貨として販売しています」という注意書きを小さく記載し、明らかに食器であるお皿やカップを「観賞用の雑貨」と言い張り検査を逃れている悪質なケースまで見受けられます。手荷物として無検査で持ち帰ることができるのはあくまで自家用やお土産用の場合のみであり、販売用として購入したものは必ず届け出と検査証が求められます。もちろん関税や輸入消費税などの税金も、商品の内容や金額に応じて納めなければなりません。
最近ではフリマアプリ等の流行により、誰でも家に居ながら簡単に商品が販売できる時代になりました。副業として物を売っている人も多くなりました。私自身この仕事を始めるまでは、食器の輸入に検査が必要なことを知りませんでしたし、恐らく大多数の人がそうだと思います。しかし、この記事を最後まで読んでくださった方には是非知ってほしいのです!何故、食器の輸入には食品衛生法が適用されるのか。それは食の安全を守るためであり、万に一つでも健康被害が出ないように細心の注意を払っているからです。ひとつの商品を仕入れるには、膨大な手間と時間がかかります。アイテム数が増えると検査費用もどんどん膨らんできます。まだまだ仕入れたい商品は沢山ありますが、予算に限りがあり少しずつしか増やせません。それでもきちんと規則を守って安全基準をクリアすることで、胸を張ってお勧めすることができます。輸入食器のプロフェッショナルとして、サラヤシキはこれからも「いちま~い…にま~い…」と、近道をせずコツコツ地道に取り扱い商品を増やしていきます!

【食品衛生法】食器の輸入には検査が必要です。